[ 呪 わ し き フ ォ ー ク ]
コツン、と、靴音を響かせた。
瞬間張り詰める空気に心地良さげに口角を上げる。
彼を訪れるとき、敢えて気配を殺すような真似はしてやらないことにしていた。
ぴりぴりと刺すような殺意、健気にも毎回毎回懲りることなく自分に向けられる鋭いそれを、白蘭は気に入っていた。
「良く眠れた?」
とはいえ今は朝ではない。
窓一つ無いこの部屋で、地上の時間軸など何の意味を成すだろう。
「お陰様で」
骸は白蘭を見据えて微笑を示した。
「それはよかった」
わざわざ持ってきてやった食事をテーブルにセットする。
席に着いた骸の目の前の椅子を陣取り、頬杖をついて食事の様子を眺める。
常のことだった。
この日課の意味も見い出せていないであろう骸は、いつも通り機械的に食事を進めていく。
何度続いたところで警戒を解くことが出来る筈もないのは知っていた。
「ねーえ、骸君」
食事中の言葉遊びももはや習慣化してきていた。
「僕が死んだらどうする?」
「願ってもないことですね、ぜひ死んで下さい」
もともと、食事中にあれこれと会話を交わすのは好まないらしい。
あからさまに苛々とフォークを突き立てる骸が愉しくて仕方ないのだが、恐らく本人に理解できることではないだろう。
「あはは、しらじらしいこと言うんだから」
フォークどころか、ナイフまで用意してある。
今のこの状況なら、もしかしたらと浅はかな考えでも浮かべているのだろうか。
「知ってるよ、骸君は僕のこと大好きだけど意地張っちゃうんだよね」
「誰が」
視線が上がる。
珍しく目が合ったときはたいてい酷く睨みつけられるのだが。
「美人が台無し」
くつくつと笑みを洩らしてやると、呪い殺しそうな目付きのまま、また食事を再開する。
殺意だけで人は殺せないのはお互い良く知っていることで、だから今の関係が成り立っているのだとも言えた。
今そのフォークを突き立てたいのは皿の上の料理ではなく目の前の咽喉だろう。
それをしないことからもある程度は骸が利口だとわかる。
「…いっそ僕が死んでみましょうか」
「殺さないよ勿体無い」
低い呟きも大袈裟なくらい否定する。
なかなか絶望に強い性質だからこそ楽しめるのだ。
「君が死んだら僕は悲しいし、僕が死んだら君は悲しむよ」
「そうですね…貴方が毎日来てくてないと困ります」
食器を置いて、骸は白蘭に笑顔を向けた。
「ここの料理は美味しいですから」
「でしょう?」
テーブルを挟んで二人は微笑を交わした。
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