[ こ の 空 は た だ 青 く ( レ ク イ エ ム ) ]
もう誰の弔いだかわからなくなってしまった。
と、綱吉は笑った。
苦笑は昔から彼の得意とする表情だった。
気に食わなげに瓦礫を踏む。
「…歩き辛い」
ぼそり、呟いた。
「貴方が来なくとも良かった」
骸は目を眇めて綱吉を見る。
遠く山の向こうに掛かるのは暗雲、上空は風が強い。
じきにあの雲がこの場所も雨で煙らせに来るだろう。
「僕一人で片付くと言った筈です」
「誰にでも優しくするの良くないよ」
風の強い日だ、雲脚が速かった。
真上の空には穴が開いたように雲が切り払われている。
光は鋭い橙をしていた。
いつの間に黄昏に近付いていたのか。
綱吉は意外に思いながら、振り返った先の斜めの陽光を傾ぎ見た。
「わ、骸」
がらん、と音を立てて、踏み付けていた建物の破片が崩れる。
バランスを失いかけながら名を呼んだ者の元へわざわざ向かう。
呼べば此方から馳せ参じて差し上げるのに、と、足下が不安定な綱吉にやきもきしながら、おかしな意地を感じつつ骸は自ら動こうとしなかった。
比較的平らな、骸の近くの地面に落ち付いて
「空!」
と綱吉はもどかしげに吐き出す。
「ほら、何か、すごい色してる」
彼越しに天を仰ぎ、息を呑む。
ありとあらゆる色という色が幾重にも重なり層をつくり、あるいは全く意図しない場所に闇と光の陰影がある。
この上空に存在しない色などないだろうと思わせる、空。
色の重なり過ぎたこのパレットで神は世界を描き上げたのだろうか。
正直、骸は圧倒されていた。
瓦礫を踏む音がした。
「嫌な空だ」
その空を背景に立つ綱吉は不快そうに眉を顰めていた。
「…行こう」
背を向けて、瓦礫を避けながら進んでいく。
骸も黙ってその後に続いた。
「骸」
呼びかけの後に小さく悲鳴をあげて、踏んでしまったらしい敵か味方かも判断の付かない亡骸の脚だか何かにしきりに謝ってから、綱吉は続きを言う。
地獄ってこんなとこだった?
振り向いた彼が笑顔だった。
双眸を細めると、骸は心の内だけで、地獄、と繰り返した。
全てはじきに闇に堕ちる。
恐らく貴方が眠る為に。
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