[ 祈 望 ]





















ああまさかこんなところで会うとは思わなかった。





駅を降りたのが、偶然にも一緒だった。

あれ程の人混みの中で何故目が合ってしまったのか、二人には全く分からなかった。

雲雀の方はついと目を逸らし、まるで何も見なかったように人波に流れて行ってしまうので、山本はあわてて、その細い体を見失わないように追いかけなくてはならなかった。



駅の出口の、人がまばらになっているようなところで、雲雀は待っていた。

当然、山本は驚いた。

けれどそれを相手に知られるなんていうことはどうしてかとても悔しいことのように思えたので、大袈裟に驚いたような声を出してやった。

「まっさか待っててくれてるとはなー!」

それに対して雲雀の機嫌はすこぶる悪かった。



「追いかけて来るのが鬱陶しかったからだよ」



雲雀の行動は時どき突飛なところがあった。

山本が雲雀を追いかけたことは何度もあったが、雲雀が山本を待っていたのは、これが初めてのことだった。

だからということもあってか、話し掛ける言葉がなかなか見当たらない。

山本は、表には出さず苦心しならが何とか口を開いた。



「どこ行ってたんだ?」

「別に」

「・・・これから家帰るとこ?」

「さあ」

「・・・・・・私服、初めて見た」

「そう」



そんなやり取りを数往復も続けると、山本は諦めて黙るしかなかった。

その間2本の電車が二人の後ろを通過していったが、雲雀の返答は聞いても聞かなくても同じようなものばかりだったので、会話が噛みあわなくなる心配はなかったし、そもそも会話ではなかった。



3本目の電車が通り過ぎたあと、

「帰らないの?」

痺れを切らしたのか雲雀の方が声を発した。

「一緒に帰ろーぜ」

山本が言ったのはほとんど反射的だったため、雲雀は断るタイミングを逸してしまっていた。




川沿いの道を二人で歩いていても、共通の話題などあるはずもない。

大抵の人間と気兼ねなく会話の出来る山本とて、相槌さえもろくに返ってこなければ話すこともなくなってしまうのだった。

山本は雲雀がどうして不機嫌にしているのか分からなかった。

人付き合いで失敗の少ない山本にとって、こんなにも邪険に扱われるのは、とてもショックなことだった。



だんだんかなしい気分になってきている山本を雲雀は横目で見ながらやや戸惑っていた。

勝手に付いて来て勝手に喋って勝手に落ち込まれては、横にいる雲雀は堪らない。

珍しくもいらない責任を感じ苛々していた。

だから別れ際に声を掛けたのは雲雀の方だった。



「また明日」



明日は週始めの月曜で、だから当然、中学校でも授業がある。

また明日、は普通の挨拶だったが、雲雀が山本に言うとなると違ってくる。

山本は思わず聞き返してしまったし、聞き返された雲雀の方でも、言い過ぎだったと舌打ちするほどのことだった。





けれど二人は明日会う約束をした。

それだけが全てだった。



















2007/04/11
3:00 2007/10/01

--- c l o s e ---





お互い素直になれない不器用さは中学生だもの。



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