[ 春 を 待 つ 陶 酔 ]
空の似合う男だった。
名前の印象が強いというのもあるのかも知れないが、屋上に凛と立つ雲雀を見て、山本は思った。
冬空の澄んだ青と彼との鮮烈なコントラストに暫らく目を奪われていた。
山本が我に返るよりも、人一倍他の気配に敏感な雲雀が振り返る方が早かった。
「何しに来たの」
低いけれどよく通る声での短い問い掛けに、山本も実に普段通りに笑って返すことが出来た。
「昼休みのときに財布忘れちまってさ。その辺、落ちてないか?」
「知らないよ」
自分で探せということなのだろう、雲雀の反応はやはり素っ気ないものだった。
それ以上を望む訳ではないが、以前より距離が縮まっていることだって少しくらい実感させてくれてもいいだろうに。
山本は苦笑した。
案の定、雲雀の足元に放置されていた小銭入れを拾い上げ、許可も得ずに隣へ並ぶ。
すかさず横目で睨め付けられたが、山本はそういうことには屈しないことにしていた。
「ヒバリは何してんだ?」
「君が知って何になるの」
「なんもなんないけど、好奇心」
「ふうん」
雲雀は興味がなさそうにすいと視線を外した。
答える気は微塵もないようなので、仕方のない山本は勝手に考えることにした。
じゃあ日光浴だろう、きっと。
ここは学校一日当たり良好だし、今日は暖かくて天気も最高だから、陽射しの下でぼんやりするのにはもってこいだ。
空の高いところに浮かぶ雲をなんとなく目で追いながら、山本は新しい季節を考えていた。
「・・・・・・用は済んだ?」
心の底から鬱陶しげな声に隣を見ると目が合った。
目が合ったといったってロマンチックなものとは程遠く、それはとっとと出て行けという無言の脅しだった。
山本はあえて見なかったふりをした。
「雲雀が飛ぶのももうすぐなんだよな」
「・・・・・・」
「あ、ひばりって鳥のほうの雲雀な」
「君が飛びなよ。今度は学校以外で」
「・・・・・・おいおい。その話は勘弁してくれよ、反省してんだからさ」
山本は困ったように笑った。
山本の言う反省はその笑い方に滲んでいて、それがわかった雲雀もそれ以上は言うのをやめた。
一応気遣われてはいるようだったので漬け込んでキスもねだってみたりしたが電光石火で拒否された。
トンファーが出てこなかっただけましとはいえ、さすがに甘くはないようだった。
余り調子に乗り過ぎると負傷して部活に行けなくなりかねない。観念した山本は素直に校内へ戻ることにした。
屋上のドアに手を掛けようとしたところでもう一度、振り返る。
挑むように睨み付ける雲雀の視線が強かった。
雲雀は圧倒的に空が似合う。山本は確信した。
「お前と一緒なら飛んでいいかも」
「・・・・・・何、それ。どういう冗談?」
次いで彼が、咬み殺されたいの?と問う前に、「なんてな」と軽く笑って扉を閉めた。
外が明る過ぎたのか、扉の内側で目が慣れるまで、いつもより随分長く時間がかかった。
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