[ か み さ ま の は こ に わ ]
おお 煮詰まってる煮詰まってる。
スギはまるで人事のように思った。
随分前からノートと向かい合って色んなことを考えているけれどとても言葉になるようなものじゃない。
無理して捕まえて紙の上に閉じ込めてみたところで、それはもう自分の言葉とは程遠いところへ逃げてしまったあとだ。
「ううむ、むずかしいなあ」
こういうときに限って気分転換すらうまくこなせない。
そしてこういうときに限って、自宅の電話機がテュリリリンと叫び出す。
「はいはい今行くよ」
どうしていつもケータイでなく家の電話へ掛けてくるのかと尋ねたら、
「ケータイは便利だからじゃない?」
と返事がきたことがあった。
スギはその答えに大いに納得した。
レオはそういう奴だ。
「はいはいなにかなレオくん」
「ご名答。よくわかったね」
「あれ本当だ、なんでだろう」
「大方作詞にでも詰まってたんだろう」
「ああそうだった。それで君の電話を待ってたんだ」
「ふうん、それはうれしいね」
「そういえば君、どうして僕が作詞に困ると必ず電話をよこすんだい?」
「スギがそう望むからだよ」
「僕が?そうなの?」
「そうだよ。現にさっきだってすぐに僕だとわかったろ」
「ああ本当だ。けど君はどうしてそうも僕の望むことがわかるのさ?」
「 あ、電車が来た。その話はまた今度。じゃ、がんばってねスギ」
そこでふつんと電話は切られた。
レオからの電話を切ったらまだあまり空が暗くなかったのがスギは意外だった。
スギはだからベランダへ出てみようかと思った。
家の屋根がたくさん見える夕やけ直後。
空はまだ濃暗の虹色に染まったまま、これからすべてを紺色へと進めてゆく。
どこかのお宅の夕げのにおいがする。
点いたばかりの街灯と自動販売機の光に照らされているのは散歩中の犬と飼い主。
線路は見えないけれど下校途中の自転車も、赤い軽自動車もよく見える。
全部がミニチュア玩具のようだ。
ああそうか、
スギは思う。
ここは神様のはこにわなんだ。
全部を潔くさせるよく冷えた青い空気の中に立つ。
今なら気持ちよくここから飛べそうだ。
その後のスギの仕事はやっぱり嘘のような進み方でみるみるうちに片付いた。
彼の好きなチョコレートを真似て齧りながらスギはしばらくぼんやりしていた。
あの電車でレオの行く先はどこだろう。
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