[ 森 と 侵 食 ]
それは何時かの別れの為の下らなくて永い恋の様な儀式。
声がききたかったのだとスマイルは言った。
その笑顔に、ジズは少し困惑する。
ざわざわと木々が揺れて、わずかに光がこぼれた。
奇麗にわらう人だと
そんな風に思う。
穏やかな筈の午後の日の光が今日は少し冷たい。
サラサラと輝くそれはこまやかな氷の粒のようで、
斜めに差し込む氷の光に目を細めた。
それともこれは何か夢だろうか。
この人が、こんなにも儚げに見える。
どうしたのかと尋ねようか。
彼は笑って答えるだろう。
なんでもないのだと。
季節はとうに冬だ。
秋という朗らかな季節はもう過ぎてしまっていて、森の広葉樹の葉は残らず地に伏していた。
時々、彼と時間を共有しているとき、正常に頭が働かなくなる。
この人がこんな風に笑うたび、
こんなに脆く笑うたび、
おかしくなってゆくのだろう。
その間も森は端的なサイクルを永遠と呼んでも誇大にならないくらいに繰り返している。
地に落ちた葉はやがて朽ちて、新たな生命の営みの糧としてまた廻り続けるのであろう。
侵食が始まっている。
ゆっくりすぎるくらいにゆっくりと
彼に蝕まれてゆく。
それはおそらく愛というもので、
そんなものが只の人形に適応するはずもなく、
侵食された躯はそのうちに跡形もなく消え去るのだろう。
そうしたら
この人が声を聞きたいといっても
それは適わなくなるのだろう。
もしもそうなったならば、
このあまりに朧気な人に泪を流して欲しい と
ジズは思った。
「ねえジズ?」
「ええ、何ですか」
「僕は声がききたくてここにきたんだ。
考え事してないで何か喋ってくれなきゃあ」
「何のお話が良いでしょうねぇ?」
「なんだってかまわないよ」
「愛していますよ、スマイルさん」
「 いいね、それ」
スマイルはくすぐったそうに笑った。
侵食が進む。
「僕はきっと、君のその言葉がききたくて、ここにきたんだ」
大切なひと。
こんなにも儚くて、脆くて、朧気で。
先に崩れてなくなってしまうのは、
果たしてどちらからだろうか。
それは何時かの別れの為の下らなくて永い儀式の様な恋。
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