[ N o n s e n s e o f t h a t d a y ]





















「貴方は月に似ていますね」



いつものように唐突に、ジズは言った。



「僕が月に?」



いつものことなので、僕も別に気にしない。

ついさっき、ジズが創り終えたばかりの人形を膝の上にそっとおろして、僕は彼を見る。



「どのへんが?」



ジズは、まるで月がそこに浮かんでいるかのように空中を見つめた。

今は真昼で、月はちょうどこの世界の反対側にあるはずだ。

強すぎる日の光に、半分だけカーテンが閉まっている。

光を遮断するカーテンは時折ふわりと舞い上がって少し湿り気を帯びた風を招き入れる。

うららかな午後。



「そうですねぇ・・・」



虚空を見上げたまま静かに思惑をめぐらせる。

ジズには月が見えているのだろうか。



「中途半端なところ、でしょうか」



太陽よりも弱い光、だからといって完全に消えられもせず。

不安定に揺らいで、なにも出来ずに満ち欠けを繰り返す。



「だったら僕よりも君のが中途半端なんじゃないの?」



僕はほんの少し笑った。

僕だって半端者である自覚はある。

それでも、あの世とこの世の境目にいるらしい幽霊紳士さんよりは

だいぶはっきりしたものに思えるのだけれど。



「ふふ、冗談ですよ」



冗談になっていないわけのわからないことを笑って、ジズは言う。



「理由は特にありません。ただ、なんとなく」



青空がまぶしい太陽の元で、

よく「月に似ている」だなんて理由も無く急に思いつくものだ。



「月に似ているなんて、初めて言われたよ」



「では皆 貴方の神秘的な魅力に気付かなかったのですね、勿体無い」



他の誰かなら絶対浮いてしまうような台詞も、この人ならなんでもない。

奇麗なものはなんだって似合ってしまうのだ。



「・・・君が似ているのは夜かな」



「ほう、夜ですか」



さりげなく組んだ脚も、興味深そうに目を細めるしぐさもジズによく似合っている。



「君がいなきゃ、僕は誰にも見えないもの」



僕には日の光は眩し過ぎる。

ジズが夜で、全てを闇と静寂に包んでくれるなら、月である僕はここにいられるんだ。

僕がそう言ったら



「けれど闇を照らしてくださるのはいつも貴方なのですよ」



静かな笑顔と、その言葉がうれしい。



小鳥の声がして、カーテンがはためいている。

平和な昼下がりに、月と夜はそぐわない。

それでもここにいることを確かめたくて。



「ねぇ。」



「なんです、スマイルさん?」



「抱きしめて欲しいんだけど」



ジズは、しょうがない人ですねと笑って椅子から立ち上がった。

膝の上の人形をそっとテーブルに寝かせて、ジズに抱きつく。

長くて細い指が僕の髪をゆっくりときすかしていく。



ジズは死んでいるから、いくら胸に耳を押し当てても心臓の音はきこえない。

いくら強く抱きしめてもその体温は伝わらない。

でもたしかに彼はここにいて、僕は彼が好きだった。



「君は僕の世界のすべて」



「貴方は私の唯一の光です」



抱きしめた腕のちからが、少し強くなる。

それだけで十分だった。



















2:05 2004/06/21

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