愛してその人を得ることは最上である

 

愛してその人を失うことはその次に良い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏のわり

 

 

 

 

 

 

「私、もうすぐ消えてしまうかもしれません」

 

 

そう言って穏やかな笑みをうかべてみせる。

彼はその手の冗談をよく言うものだから、ボクも笑い返した。

 

 

「へぇ、そうなのー・・・」

 

 

ある夜のことだ。

 

別にその日、何か特別なものを感じたわけではないし、いつもとまったく同じで。

ただ、ちょっと・・・ほんのちょっといつもより夜明けが遅く感じるようになった・・・そんな日だった。

 

夏の終わりが近い。

 

睦言を繰り返すことにさえもう飽きてきたボク等は、ただただ時間がたつのを見つめていて。

傍に・・・彼がいればただそれだけでボクはボクでいられた。

そう、思っていた。

 

開けっ放しの窓から忍び込んできた風が、カーテンをかすかに揺らす。

まるで、女の子のスカートが揺れてるみたいで、ボクはなんとなくその動きに見入っていた。

ジズはさっきの一言以来、口をきこうとしないで、にこにこと僕を見ている。

 

 

夜明けが恐い。

この空間が壊れてしまうのが恐い。

「時間」という概念すら忘れかけていたボクに、その恐怖は時間の重さを思い出させてくれる。

だから、そんな時。

いつだってボクはいろんなことに知らないフリをして見せた。

 

 

 

 

ぎし、ベッドが鳴き声をあげる。

流石にこの小さなベッドに二人で乗るのは無理があるようで。

けれど、古臭い木製の、この小さいベッドがボクは大好きだった。

そこが、夜明けっていう瞬間のボクの世界の全てだったから。

 

 

 

 

そう、とても・・・好きだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時ボクは、ジズの屋敷の中にいた。

 

 

 

 

 

 

たったの二十日間くらいしかたってないはずだ。

それだけでこんなに変わってしまうものだろうか?

 

 

 

 

埃の積もった床

 

ひびの入った壁

 

ガラスが全て割れ落ちてしまっている窓

 

日に焼けて色あせたカーテン

 

割れて散らばるティーカップたち

 

 

 

 

ジズの使っていた部屋。

こんなにも変わってしまえるものなのだろうか。

 

つい最近来た時は、

あんなにキレイだったのに・・・?

 

 

 

 

 

 

「じ・・・ず・・・・・・?」

 

 

 

 

 

ゾッとした。

1番嫌な考えが頭をよぎる。

 

 

 

 

 

 

違う

絶対に違う!!

 

 

 

 

 

そうだ、きっと人形の部屋にでもいるんだろう。

ただちょっとの間掃除をさぼっていただけなんだ。

そう・・・そうに決まってる。

みつけたら怒ってあげなくちゃ・・・

 

 

ボクは走り出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「は・・・・・はぁ・・っ」

 

 

 

 

 

 

見慣れた扉を見つける。

こんな風に全力で走ったのはどれくらい前だっただろう?

 

 

きっとこの中に彼はいる。

そう思った・・・思いたかったのに。

 

 

 

 

 

「・・・んで・・・・・・なんでぇ?」

 

 

 

 

 

さびついているのか、ドアノブが回らない。

必死に、両手を動かす。

体中から冷や汗がでてきた。

なんだか視界もぼやけてきた。

 

ボクは・・・ボクは

 

 

がチャッ

 

 

嫌な音がして扉が開く。

 

 

ぎぃ

 

 

 

「ジズっ!!!」

 

 

 

それでもその時、ボクは笑みをうかべていたと思う。

ひきつってたかもしれないけれど。

 

 

真っ暗な部屋の中。

恐る恐る一歩を踏み出した。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

何かを踏んだ?

やわらかな感触。

 

そっと、足をどかしてみる。

それを拾った。

 

月にかかっていた雲が、ゆっくりと動き出す。

光が、部屋の中に。

 

手の中のものを月明かりにかざした。

 

 

 

 

 

 

・・・・・人形。

 

手の中にあったのは、薄汚れた人形だった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ぁ」

 

 

 

 

 

彼の傍に、よく居た。

愛しそうに彼は頭をなでていた。

毎日手入れをして、最高に美しいままにしておきたいのだと。

 

 

 

 

「・・・・・・ね、君なら知って・・・る?」

 

 

 

 

声が震えている。

なのに少しも人形は動かない。

あんなにもクルクルと美しく動いていたじゃないか。

その姿に、彼の態度に嫉妬さえしたのに。

 

 

 

 

「ジズ・・・・どこに行ったか知ってるでしょ?」

 

 

 

 

動かない。

ぐったりと、すすと埃にまみれた汚らしい人形。

かつての恋敵ともいえる愛らしかった人形。

 

 

ボクは、

しっかりと抱きしめた。

 

 

 

 

 

「・・・・ぁ・・・あ」

 

 

 

 

 

眼を見開いているはずなのに、

何も見えない。

 

 

 

 

 

――――きっと、来世がありますから

 

 

 

 

「あぁあぁアぁァあっっ」

 

 

 

 

彼の言葉が次から次へとよみがえる。

冗談なんかじゃなくて、それは彼なりのお別れで。

 

毎日毎日・・・飽きることなく。

 

 

 

 

 

―――-また、かならず逢えますから

 

 

 

 

 

とにかく何かにすがりたくて。

知らないフリをしたくて。

彼の言葉が恐くて

知らないフリをした自分を忘れたくて。

 

 

強く強く人形を抱きしめた。

 

 

 

 

「・・・・・・・ごめ・・・なさ」

 

 

 

 

 

 

 

認めることが、ただ恐くて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ズ」

 

 

 

 

 

 

 

けれど、何も還ってはこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の終わり

 

 

夏の終わりには

ただ君にあいたくなるんだ

 

いつかと同じ風が吹き抜けるから・・・

 

 

 

今日もあの日みたいに、カーテンが風に踊ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

アトガキ

木賊サマ、遅くなって申しわけありませんでした!(汗)

7000を踏んでくださった、貴方サマに捧げます。

ジズスマで、死にモノです。

ぇと、前サイトにあった「For」の前編みたいなものでしょうか?

「夏の終わり」っていうのは森山直太郎さんの歌から。大好きです。

あと、書き始めが夏の終わりだったから、です。

木賊サマ、ありがとうございました!!

 

 

 

 

 

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