[ 構 成 成 分 ]
水・・・35リットル
炭素・・・20キログラム
アンモニア・・・4リットル
石灰・・・1.5キログラム
リン・・・800グラム
塩分・・・250グラム
硝石・・・100グラム
イオウ・・・80グラム
フッ素・・・7.5グラム
鉄・・・5グラム
ケイ素・・・3グラム
15の元素・・・少量
なんだか上の空だったので
なに考えてんですか
と、訊いたら、
わけのわからない呪文じみたものを唱えだした。
「なんですかそりゃ」
「何だと思う」
・・・わからないからきいているのだ。
かんべんして欲しい。
今 俺に組み敷かれている、俺の上官であるその男は 科学者の目で俺を見た。
「人体の構成成分だよ」
構成成分――・・・。
俺は頭の中でその言葉を繰り返した。
つまり人の体ってのはそのたった数種類だかの成分でできている、と。
裏を返すならそれさえあれば人(の体)を作ることができる、と。
そして、もう完全に上司の顔に戻って試すような笑みを浮かべているロイ・マスタング大佐は、人間を作ることについて考えていた、と。
・・・最中にもかかわらず。
「人を作るべからず じゃないんスか」
「その通りだよ、ハボック少尉」
国家資格を持つ者の三大制限だかなんだかをなんとか思い出して、非難をこめて言ってやったのに大佐はあっさりとそれを肯定した。
「禁忌なんでしょ?」
「そうだな」
「成功した奴いないんでしょう?」
「うん、そう聞いている」
にこにこと、たぶん女からは好かれて男からは嫌われるような笑顔でもって俺の言うことすべてに頷いてくる。
これじゃあらちがあかない。
俺は深くため息をつくと、大佐の上からのいて、その横に倒れこむようにして寝転がった。
ギシ、と ベットのスプリングが軋む。
ああいう体勢はけっこう腕が疲れるのだ。
「安心しろ。実行したりするようなことはまずないだろうと思うから」
安心しろ、といっている割にずいぶんと曖昧な表現である。
なにが可笑しいのか笑いながら告げる大佐に、俺は乾いた笑いを返すことしかしてやらなかった。
ベッドサイドにあったシガーケースとライターに手を伸ばすと、隣でくすりとわらうのが聞こえた。
「何だ、もういいのか?」
からかうように、耳元に直接声が吹き込まれる。
また 翻弄されている。
わかってはいたが、俺は大人しく 火を点けたばかりの長い煙草を灰皿に押し付けていた。
「・・・ハボック」
しばらくして、名前を呼ばれる。
この男が最中に呼ぶ名は一つしかないので、俺の名前が呼ばれたということはまた他の事を考えていたのだろう。
「大佐・・・ちったあ集中して下さいよ」
半分あきれて、かなわぬ要求を口に出す。
大佐から自身を引き抜こうとしたら「続けていて構わない」なんておっしゃった。
とんでもない上司だと、つくづく思った。
「もし私が人体錬成をしたなら、何を持っていかれるんだろうな」
またそのことを考えていたのか。
「もってかれるって?」
「代価だよ。鋼のは通行料と言っていたか」
あぁ、と 俺はわかったような返事をした。
鋼の錬金術師である金髪のチビが左足だかなんだかを、その弟が体全部を持っていかれたのだという、あの話か。
「・・・・・・私は何を代価にすれば、錬成できるんだろうな」
またそのことを考えていたのか。
背中に手をまわさせて、身体を密着させる。
微かに心臓の動く気配がする。
この男が、いつか本当に人体錬成とやらをやってのけそうで怖かった。
この男の全部でも一部でもあの人に持っていかれるのがたまらなく恐ろしかった。
「実行、しないんスよね?」
俺は恐る恐る問う。
またはぐらかされるのは、わかっていた。
「・・・今日は珍しく乱暴なんだな」
そんな風に指摘され、どうしようもなくて、俺は泣きたいような笑いたいような気分で、さらに乱暴に大佐を突いた。
果てる直前、大佐が本当に小さな声でヒューズと言ったのがはっきりわかった。
わかっただけで、俺にはどうしようもなかった。
射精後の脱力感の中で、大佐はずっと俺の腕の中にいてくれた。
俺は今度こそ、火をつけた煙草の煙を肺に吸い込んだ。
たぶん煙草とこの男で、今の俺は構成されているのだろうと思った。
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