[ 風 邪 に ま つ わ る 感 知 の 可 能 不 可 能 に つ い て の 考 察 ]
いつものように事務的な口調でホークアイは告げる。
「大佐、今すぐ帰ってください」
「は?」
マスタングを含むその場の全員が呆気にとられて彼女に注目した。
「何だね中尉。やぶから棒に」
「それはご自分が一番よくわかっていらっしゃるのでは?」
あくまで冷静にそう返されて、案の定 心当たりのあるらしいマスタングは苦い顔をして口をつぐんだ。
「・・・・・・・・・、しかし私がいなければ・・・」
「ここで倒れられたほうが混乱が生じます」
「仕上げねばならん書類もまだ・・・」
「体調が回復されてからのほうが能率も上がるかと」
「いや、そうは言ってもだな・・・」
それまで話がつかめずにいた司令部の面々も二人のやり取りを追ううちに事の由を把握してきた。
「大佐 体調くずしてたんですか」
「うん。なに、ただの風邪だよ」
本人はこともなげに言ってのける。
事実、あまり具合が悪いようには見えないのだ。
今日のマスタングの様子で普段と違っていたことといえば、そういえば珍しく真面目に机に向かっていたことだろうか。
しかし、普段なら帰れと言われた瞬間に嬉々として帰宅の用意を始めかねない上官なのである。
帰って下さいと言うホークアイにまだ反論を試みているところを見ると、やはりどこかおかしいのだろうと一同は納得した。
そうこうしている間に闘議は終了したらしい。
勝敗は言うまでもないが、大人気なくむくれているマスタングといつも通り平静なホークアイを見れば一目瞭然だ。
「ハボック少尉」
勝者であるホークアイの声に、ハボックは銜え煙草のまま顔を上げる。
「何スか」
「これから外まわりだったわね。ついでに大佐を自宅までお送りしてちょうだい」
「ちょっと待て!いくらなんでも家に帰るくらい一人でできるぞ」
マスタングは慌てて二人のやり取りに割って入った。
「女性のところに寄り道なさる体力がないとも言い切れませんし、それに万が一、路上で倒れられたら事ですから」
「 ははは・・・」
ホークアイは冷静だ。
マスタングに返す言葉はなかった。
「どこで気付かれたのかな」
コートを羽織りながら、マスタングは誰にともなく呟いた。
「なんか言いましたー?」
耳聡く聞きつけたらしいハボックが煙草の煙とともに言葉を吐き出す。
「仮病を使うのはあまり得意じゃないが 具合が悪くないふりをするのはうまいはずなんだけどなぁ 私は」
「へぇー」
さして興味もなさそうなあいづちが聞こえてくる。
もともとひとりごとのつもりで言っていることなのでマスタングも気にはしないが。
仕度を整え終えて視線を上げると、じっとマスタングを見ていたらしいハボックと目が合った。
「・・・何かおかしいかね?」
「・・・・・・や。用意終わったんならとっとと行きますよ。風邪 悪化してもつまらんでしょ」
ハボックはいつものように掴みどころなくへらと笑った。
「どこで気付いたんですか」
図らずも同じ頃、上司と同じ台詞を口にしたのはフュリーだった。
無論、つい今しがたお供を一人従えて出ていったマスタングについての話である。
先刻の控えめな言い争いから察するに、マスタングの体調はだいぶ前から悪かったらしい。
もしかすると今朝、いつもと変わらぬ様子で顔を出したときにはもう不調だったのかもしれない。
だというのにホークアイが申告するまでこれっぽちも気付くことが出来なかったのだ。
「僕 全然わかりませんでした」
苦笑を浮かべつつそう言うフュリーに後ろにいた頭脳派二人も共感の意を込めて頷く。
「さすがホークアイ中尉ですね」
ファルマンが何気なく言った言葉に ホークアイは意外そうに あら、と呟いた。
「私だってハボック少尉に言われるまで気付いてなかったのよ」
そう言って彼女は笑うのだった。
「私だってハボック少尉に言われるまで気付いてなかったのよ」
ホークアイの言葉に、フュリーとファルマンはあからさまに驚いたように顔を見合わせた。
が、ブレダはさして驚いたふうでもない。
「少尉はわかっていらしたんですか」
「あいつが大佐の護送頼まれるまで半信半疑だったけどな」
ファルマンが尋ねるとブレダはそう笑った。
あの男は昔から何も気にしていないようで誰もが気付かないようなことに真っ先に気付いてしまえる奴なのだ。
まぁマスタングについては、それとは別に特によく見ていたといえるのだろうが。
「・・・ハボック少尉って実はすごい人なんですねぇ」
フュリーは真面目な顔で、感慨深げに言う。
裏を返せば今まで大してすごいとは思っていなかったという風にも取れる言葉だが、本人にそのつもりはないだろうから指摘するのはやめておくことにした。
「なんだか僕 本当に大佐のお役に立ててるんでしょうか」
「はは、そりゃあ言い過ぎだ」
ブレダは豪快に笑ってしょげ気味のフュリーの頭をたたいた。
「お前とあいつじゃやってる仕事がまるきり違うだろうが」
その言葉に、ファルマンも朗らかに言う。
「大佐の信頼にお応えして、我々は出来ることをやり遂げればいいんです」
「 そうですね、僕も 頑張ります」
気を取り直すように大きく頷いてフュリーは笑った。
そんなやり取りを見、ホークアイはこの部下たちをあらためて頼もしく思った。
彼女は笑って机に向かい直した。
「さあそろそろ仕事に戻りましょう。
大佐は私たちひとりひとりの能力を買ってくださっているのだから」
一応の最高司令官不在の司令部で面々は各自の仕事に取り掛かるのだった。
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