[ 真 昼 の 月 ]





















「光子郎っ」





いつも通りの学校へ行く道。

背中にかかった聞き慣れた声に硬直する。

大好きな声なのに、いつものように振り返れない。



   っ。」



後ろも見ずにそのまま全力で逃げる。



「おいっ ちょ…光子郎ッ!」



焦ったような声を聞きながら光子郎は速度をゆるめようとはしなかった。









大分、走った。



進行方向も定めずにただ真っ直ぐ進んでいただけなので、行く筈だった学校からはだいぶ離れてしまった。

時間も、もうない。

息を切らして時計の文字盤を見、光子郎は苦笑した。



「・・・学校、間に合わないな…」



いっそサボってしまおうか、なんて思い付いたのも先刻おいてきた誰かさんに感化されたからなのだろうか。



当てもなく、通勤ラッシュの終わった街をぶらぶら歩く。

光子郎はもう一度腕時計に視線を落とした。

すでに授業が始まっている。



「太一さん遅刻してなきゃいいけど・・・」



朝のあわただしい人ごみの中でよくはわからなかったけれど、途中まで追いかけてくる気配はあった。

見当違いな心配とともに考える。



さっき自分は何故逃げたのだろう。

たしかに昨日、いざこざはあった。

でも、冷静に考えるとあんなに走ることはなかったような気がする。

単なるけんかだ。

その程度だ。

なのにどうして・・・



光子郎は息をひとつついて空を仰いだ。



さいきん自分が自分で分からなくなることが多過ぎる。

こんなこと今まではなかったのに。



あの人の影響力は大きい。

「わかる」範囲を超えて、こんなにも変わっていく。

自分が、

世界が、

全てが。



それは光子郎にとって未知なことだ。



未知なことは知れるということで、少しうれしい。

けれど、未知なことは「わからない」ということで、少しおそろしい。





仰いだ空はあまり青くはないが、眩しかった。

終わりのない高さ、広さ。

目を細めた遥か上に、取り残されたように薄く真昼の月が見えた。



















0:47 2004/04/24

--- c l o s e ---





この話、本当はまだ続くつもりだったんで切れが悪いです。



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