2 8 t h t i t l e : 「 お い お い お い 」
「おいおいおい」
路地裏の汚れた壁に背中を預け、周りに視線を巡らせる。
夜の帳はとうに落ち切っていて辺りを統べるのはしんと深い闇だけだった。
辛うじて届く喧騒も、どこか町はずれの祭囃子でも聞いているかのように非現実染みていた。
走馬灯こそ見えはしないが、KKにはそれが不吉の予兆のように思えてなんとも気分が悪かった。
ぬるまっこい夜の風が首筋を撫でた。
音だけで判断しても、向こうさんは随分な人数を裂いて捜索に当たっているらしかった。
追い付かれるのも時間の問題だというのは容易に想像が付く。
とはいえ数少ない侵入経路なんかは真っ先に堅められているだろうし、下手に動く訳にもいかなそうなのだった。
KKは軽く舌打ちをした。
今回の仕事で自分に落ち度があったとは思えない。
弾道を読まれたにしろ、こうも短時間に団体様をご用意できるということは、それなりの理由がある筈だった。
「まさかお前がいるたァな?」
視線は寄越さないまま、路地の暗がりからの気配に笑い声で語り掛ける。
コツンと静かにヒールが響く。
密告者は涼やかな微笑を返し、髪に留まった蝶の飾りは月光に揺らめいた。
「丁度良い時間稼ぎになったわ。ありがと、お掃除屋さん」
何が時間稼ぎだ、KKはうんざりと溜息を吐き独り言ちた。
散々騒いでやったから、時間稼ぎには確かにもってこいだったはずだ。
暗夜を好むこの蝶にまんまとしてやられた訳だった。
「お前に出くわすと本ッ当ロクなことねぇな、メイ」
「あら、メイってどなたかしら。私なら、ジュンっていうんだけど」
「・・・・・・あー、そうかい」
力なく言うと、彼女はぴたりとKKに身を寄せて歌うように囁く。
「ね、逃がして上げても良いけど?」
距離を縮めた喧騒が、リアルを連れ戻して耳に届いた。
こういう言い方をするときは、無償で、という訳にはいかない。
「条件は」
整った唇が優美な曲線を描きゆっくりと笑みをかたどる。
髪留めの胡蝶を月明かりに舞わせるように、ジュンは艶やかに小首を傾げてみせた。
「終ったらお酒付き合ってくれないかしら」
一瞬面食らったような顔をしてから、KKはにいと口の端を上げた。
2:37 2007/02/17
4:03 2007/03/04
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