2 7 t h t i t l e : 「 だ か ら 言 っ た だ ろ ? 」
「だから言っただろ?」
案の定ずぶ濡れになって帰ってきた友人にタオルを放り投げてやりながら、レオは笑った。
「だってさ、あんな一気にどばーっと降るなんて思わないよ普通」
全身ずぶ濡れのくせにからりと言って、スギは玄関でタオルをキャッチする。
突然の豪雨に見舞われたにしてはスギの機嫌はすこぶる良好で、だから一層その言葉は言い訳がましく聞こえた。
がしがしといい加減に、短い髪の水分を拭き取っているスギに問う。
「もしかしてさ、傘置いてったのワザと?」
「まさか!」
スギはTシャツとジーンズを着替えながら笑い飛ばした。
「傘持ってかなかったのは、単に面倒だったから」
僕ってそんなに酔狂な人間に見えんのかなあ、などとぼやきつつ、濡れた服とタオルを洗濯機へ放り込む。
食器棚からグラスを一つ取り出して、冷蔵庫のドアポケットに常備されている紙パックコーヒー牛乳をなみなみと注ぐ。
それを一口だけ飲んでテーブルに置いて、気に入りのソファに落ち着いて、
「なんてね」
動線の一部始終を目で追っていたレオの真向かいでスギは言った。
「本当はタイミング狙ってたのかも知れない。不可抗力で雨に打たれてずぶ濡れになれるタイミング」
雨に打たれたがるなんて、まるで植物みたいだ。
いかにもスギが言い出しそうなことで、レオはふと、かけがえがない、と思った。
愛おしい、という表現でも間違いじゃないのだろうが、それだとあんまり個人的過ぎてしっくりこないような気がする。
だから、かけがえがない。
それはなにもスギの発言に限定されたことではなくて、たとえばコーヒー牛乳をほんの一口ずつ飲み込んでゆく喉とか、時折リズムを取るように踏まれるスリッパの踵だったり、つまりスギのすべてということだった。
「スギは何か、かけがえがない」 レオが言うと、
「なんだよそれ。レオはおもしろい」 スギはくすぐったそうに笑った。
まだほとんど乾いていないスギの黒髪にとまった水てきと、彼が口をつけたグラスのふちが、白熱灯の下できらきらしていた。
そこだけはもう雨上がりで、虹のひとつでも架かりそうな位だった。
2006/07/27
9:50 2007/02/19
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