2 5 t h t i t l e : 「 許 さ な い 」
「許さない」
言ってみたとたん、お庭番の顔から見る見る血の気が引いてゆくのがわかった。
ポーカーフェイスが身に染み付いている彼の表情がこう分かりやすく変化するのは珍しい。
僕は笑ってやった。
「冗談だよ冗談。そんなに深刻そうな顔しなくっていいよ」
だというのにヨザックはぐっと唇を結んで僕の前に跪き、頭を垂れた。
「申し訳ありません猊下、身分もわきまえず軽率な真似を致しました」
「だから、本気で言った訳じゃないんだってば。顔上げなよ」
ここまで言ってやっているのにヨザックはその体勢から一向に動こうとしない。
一瞬の言い回しで己の罪を認識できたのは賞賛に値するかもしれないが、こうして目を瞑ってやると言っているのにまだ引き下がらないなんて余程の馬鹿のすることだ。
「大丈夫だって、別に気にしてないからさ」
「いいえ」
ヨザックはきっぱりと言う。
「オレは猊下の様に聡明ではないですが、オレの発言が貴方を傷付けた事は分かります」
傷付いた?
誰が、誰に?
自惚れも大概にしてくれ。
僕はいい加減うんざりしてきた。
こんな愚かな男に大賢者ぶるのも無駄なような気になってくる。
「許すって言っているんだから素直に許されたことにしておけばいいだろう」
わざわざ事を荒立てようとしなければ自分は安全なのに。
やっと姿勢を戻してから、ヨザックは口を開く。
「・・・オレは大賢者様にお許しを乞うているんじゃなく、貴方に許して欲しいんです、猊下」
そういえばヨザックはとてもきれいな目の色をしているんだなと僕は急に思った。
普段まともに目なんて見ないから、全然気付かなかった。
「それじゃあ望み薄だね、残念だけど」
僕は笑ってやった。
ポーカーフェイスは割りと苦手じゃないと自負している。
今のこの笑顔なら、ウェラー卿はもとより渋谷にだって見破られはしないだろう。
「僕は君を許したりはしないよ」
そう許しちゃいけない。
この男に心を許すのは余りに危険だ。
9:43 2006/07/28
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