6 t h t i t l e : 「 本 当 は イ ヤ な ん だ け ど 」
「本当はイヤなんだけど」
言う割には明るく、マコトはKKの髪に鋏を入れる。
「タダ働きはしない主義なんだけどなー オレ」
「だーから丁重にお断り申し上げてんだろォがよ最初っから」
半強制的に椅子に座らされ、なすがままになっているKKの口調には既にあきらめの色が濃い。
この男の頑固さは、知りたくもないのに厭というほどよく知っていた。
マコトは素直に抵抗を諦めたKKの髪を一房取って大袈裟に溜息をつく。
「あんたはも少し自分をいたわるってこと覚えたほうがいいよ」
KKの髪質は本来なら決して悪くない。
だというのに生活が恐ろしく不規則なせいで今じゃ見る影も無いほどボロボロの状態なのだ。
他人の生活リズムなど知ったこっちゃないが 職業柄、髪に関してだけは黙っていられない。
まったく厄介な性格だ。
「ほどほどにしとけよ?」
放っておくとすぐに無理をしたがる、自分以上に厄介な性格の友人は、殺し屋なんか向いていないと思う。
けれど気にかけてやれるのは辛うじて彼の髪の事くらいのものだ。
傷んだ髪を丁寧にカットしていきながらマコトは明るく冗談めかして笑う。
「これはもうオレでなくちゃ切れないねー」
「 悪ィな」
うつむき加減で短く呟くのが聞こえてきた。
KKらしくない反応に おやと思う。
ひどい傷み様だなこれは。
マコトはいきなりKKの後頭部を思い切りばしんと叩いた。
「おぁっ!?」
衝撃でKKが前につんのめる。
「っにしやがんだてめぇ!」
「はーい、カット中じっとしてないと耳まで切り落とすよー?」
たとえ冗談とわかっていても大人しくなるのはマコトの恐さを知るが故だ。
失礼しちゃうな などと髪に触れるマコトの手はどこか優しげだった。
「ま、オレに任せなさい。その代わり店の片付けはきっちり頼むよ、掃除屋さん?」
鏡越しに目が合う。
まだ情けない顔をしているKKに、弟にしかしない笑顔までくれてやった。
これは特別料金を請求する必要がありそうだ。
1:37 2006/01/31
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