[ 5 t h t i t l e : 「 黙って聞け 」 ]





















「黙って聞け」



その剣幕に気圧されるようにタローは精一杯真剣な顔をしてこくりとうなづいた。



ナカジが歌うのを聴いたことがなかった。

ギターだったらけっこう頻繁に聴かせてもらっているけれど。



とにかく渋るナカジにどうしてもとせがみ倒してようやく了承を得たのだ。

こんなことで台無しにしてしまっては元も子もない。



「いいか笑うなよ。どれほど滑稽かは俺が一番わかってる」



ナカジはもう一度念押しして、息を吸い込んだ。




 - - - - -



音の余韻から我に返る。

タローは不思議そうに首を傾げた。



「ちっともおかしくなかったよ。てゆか上手だっ・・・」

「もういいそれ以上喋るな」



ナカジはタローの言葉を途中で遮り一気に喚いた。

本気で照れているらしく、下を向いて片手で口元を押さえながらあーだのうーだの呻いている。

耳まで赤い。

こんなナカジは初めて見るなと思いながら、タローはやっぱり不思議だった。



「ねーナカジー?」



ナカジが少し落ち着くのを待って、声をかける。



「でもほんとに上手だったよ?あんな歌うの嫌がることないのに」

「上手だ? …そんなわけあるか」



ナカジは大きく溜息をついて言った。



「本来なら人様に聞かせられる代物ですらない」

「そーかなあー・・・」



そりゃあプロの歌手並みとまではいくはずもないけど、一緒にカラオケだのなんだのに出かけた時に聞いたような友達の歌とは明らかにレベルが違う。

路上で歌を聞いてもらっている人たちの中でだって十分通用するんじゃないかってほどなのに。

なのに頑なに歌を拒むナカジがタローにはどうしてももったいなかった。


諦め悪く納得のいかない顔をしていると、ぼそりと呟くのが聞こえてくる。



「自分で悪いと思っているものを他人に認められたって意味がない」



顔は上げないまま、手持ち悪そうに意味なくギターの弦をいじっている。

聞きようによっては単に駄々をこねているだけのようにも取れなくもなかった。


タローはその言葉になんだか感心してしまって、そろりと訊いてみる。



「ナカジって完全主義?」

「音楽に関してだけだ」



タローはまるで自分の事のように誇らしげに、楽しげに笑って、言う。



「それってすっごくナカジらしいね」





その屈託のなさにまた救われた気がした。





















2:24 2006/01/16






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ナカジさんてなんかねらいたくなるね。赤面させたかったのです。



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