3 r d t i t l e : 「 ち ょ っ と 待 っ て よ 」
「ちょっと待ってよ」
どんどん先を歩いていく背中にあわてて声を掛ける。
「待ってってば兄さん!」
「いーから早く行くぞ」
エドワードは追いかける弟を振り返りもせずに足を動かしながら言った。
コンパスの差を気にしながら歩調を合わせる。
「話だけでも聞いていったら?もしかしたら大佐本当に困ってるのかも知れないじゃないか」
半ば呆れたような口ぶりで提案してみるものの、答えはだいたい予想できていた。
「いーや、だめだね」
案の定エドワードは気持ちのいいほどきっぱりと言い切る。
先刻の電話を受けたのはエドワードだったが、彼曰く、あの声はまた何か厄介ごとを押し付けようとしている声だったとのこと。
声だけでわかるほど仲良かったっけとぼやいてみても、ぶつぶつと悪態をつき続けている兄には聞こえるはずもない。
「第一あいつから下手に出るなんて胡散臭いにも程がある!」
背後で聞き覚えのある軍靴がカツリと響いた。
「悪かったな、胡散臭くて」
有能な部下を従えてそこに立っていたのは、声だけで以心伝心の電話口の相手、ロイ・マスタング大佐だった。
「駅に先回りしておいて正解だったようだ」
彼は至極楽しげに笑って言う。
どうやらエドワードの考えていたこともしっかり伝わってしまっていたようだ。
「忘れてもらっては困るな」
マスタングはからかうような調子のままエドワードを見据える。
「その銀時計に誓った筈だ。君は軍の狗なのだよ、鋼の」
一瞬その眼に鋼の様に冷たい不動の光を見た気がして、兄が無意識だろうが身を強張らせたのがわかった。
「では等価交換といこうじゃないか」
マスタングが口角を上げる。
「報酬は石の新情報、どうだね?」
エドワードの金の眼にも不動の光を見た。
焔の様な鋭い光だ。
「 乗った」
エドワードは思い切り不敵に笑った。
あの灯を消しちゃいけない。
きっとそのために、寝ずの番が出来る体になったんだ。
1:20 2006/01/16
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