[ 8 t h t i t l e : 芝 蘭 の 化 ]





















存在は、まあ 知っていた。

それはそうだ、どんな人間でも一応は自分のクラスの奴なんだから、一日一度は会ってるはずだ。



「すっごい・・・」



タローが思わず口にした言葉はギターを奏でていた彼の耳にも辛うじて届いてしまったらしく、ナカジはぴたりと演奏を止めて振り返った。

目が合った瞬間、タローのとりあえずの愛想笑いを認知する間もないほどすばやく川面に向き直り、けっこうな速さで持っていたギターを横へ置いてあったケースへと片付け始める。



困ったのはタローだ。

やっぱり見ちゃまずいとこだったのかと思っていると片付け終えたらしいナカジがつかつかと歩み寄ってきた。

内心あせりつつ持ち前の人当たりの良さで乗り切ってやろうと腹を括って、声をかけようと試みてみる。



「ナ・・・」

「お前は何も見なかったし何も聞かなかった」



畳み掛けるようにそう言ってナカジはとっとと立ち去った。



残されたタローは何をすべきか考えあぐねてナカジの後ろ姿をただ見送ってしまったのだった。







と、いうのが昨日のことで、

やはり億劫がらずにきちんと口封じをしておくべきであったとナカジは後悔していた。



「そーだよなーそういや特に気にしたりとかしてなかったけどナカジっていっつも学校にギター持って来てたもんな」



登校してきてからずっとこの調子だ。



タローがここまで喋りまくる人間だとは、今まで大して興味を持たずに接していたナカジにとっては予想外のことだった。

向こうも今まで自分に対して同じように接していたであろうことは、昨日例の現場を目撃されてからの態度の変わり様で明らかである。

川原にいた自分がよほど意外に映ったのだろうか。

だとしてもこうもやかましくなられるとは と、ナカジはうんざりしてきていた。



「いい加減にしてくれないか、昨日何があったのか知らないが」



その言い方にタローはちょっとカチンときた。

本気でなかったことにする気らしいが見たものは見たし聞いたものはたしかに聞いたのだ。



「昨日ナカジが川原の橋のとこでギター弾いてんのを見たんですーってナカジも知ってんでしょ」

「・・・・・・、記憶にないな」



ナカジは厚いレンズのはめ込まれた眼鏡を押し上げながら窓の外に目線を逸らす。

空なんか見てもなにもありはしないのに。



「さっきからなにがそんな気に食わないの」



先刻よりも音量の上がったタローの声に、窓ガラスに映ったナカジの表情が迷惑げに曇ったのがわかった。



「俺はナカジがギター弾いてんの聞いてすごいなーって思ってたのにそういうのってそんな面白くない?」

「誰もそうは言ってない。・・・余り騒ぎ立てて欲しくないだけだ」



ぎりぎりまで音量を抑えた低いその言葉に、たしかに声高にものを言っていた自覚はあったタローははっとして直ぐに謝罪する。



「あ・・・・・・ごめん」

「いや」



もういいだろうとでも言いたげなぶっきらぼうな相づちにタローは溜め息をついた。



単純に友達になりたいだけなのに、こうも難しいだなんて。

空回りまくっている自分が悲しくなってしまう。



タローにちらりとだけ目をやって、人知れずナカジも溜息をもらす。



「…知人であれを目撃したのはお前が、初めてだったから」



だから柄にも無く一寸焦った。

そう言ってナカジは窓の外に浮いている雲を正視したまま短く謝った。



一瞬きょとんとして、それからタローはさらに大仰にため息をつく。



「いまさら遅いよー」



やっと雲ではなく困ったような顔でタローのほうに向き直ったナカジを見てタローはにっと笑いかける。



「俺はナカジがすごい奴だってわかっちゃったんだから」



「それは・・・つまり、どういうことなんだ」



神妙に首を傾け尋ねるナカジにタローは一拍間をおいて言った。



「友達になってください。でもってナカジのギター、もっと聞かせてくださいっ」



ナカジは分厚いレンズの奥で瞳を数回しばたかせた。



「今日も川原、行くんだろ。俺も行く。嫌だって言ったら昨日みたく偶然行く」



場違いなほど突然鳴り出したチャイムが休み時間の終わりを告げる。

ほかの生徒にならって自分の席に戻りかけたところで、ナカジがため息をついたのがわかった。



   お前は俺を過大評価し過ぎてる」



教師の気配を気にしながらタローは振り返った。



「俺はお前が言うほど上手くないし、だから上手くなりたい。けど一人じゃ限界がある」



次の授業は英語で、先生がちょっとこわい。

なのにタローは静かにナカジの言葉を待った。



少しためらったのち、



「付き合って欲しい」



あんまりな物言いにタローは思わず吹き出した。



「ほかにもっと言い方あるっしょ」

「言い方はどうだっていい。 返事は?」



タローの返事は当に決まっていて、ナカジがかしこまって宜しく頼むとか言うものだから、ただ一人席に戻っていなかったことについて先生に言われたお小言もさして気にならないほど、タローは放課後が待ち遠しかった。









と、いうのが数ヶ月前のことで、
やはり後悔するには及ばなかったようだとナカジは考えていた。

こうしてポップンパーティーなぞに参加することができているのも、こいつのおかげと言えなくも無いのかも知れない。



「芝蘭の友・・・とまでは行かないか」

「ん?なに?」

「いや」









 君と僕で絡まって繋ぐ未来 最終形のその先を担う世代



















16:54 2005/11/26






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新キャラだけにものっそ難しかったキャラ考察。
ギター弾く人の気持ちなんてギター弾く人にしか解らんのだと諦めずにゆこう。
あじかんさまごめんなさい。へこたれないぞ。




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