[ 7 t h t i t l e : 沿 う ・ 添 う ]
海に沿う道を行く
17:46 2005/08/03
君が海へ行きたいと言い出したのは今から数時間前のこと。
明日は二人ともおやすみだからいっしょにどこかへ遊びに行こうか、それとものんびりと家で休暇を堪能しようか、と話していたところだった。
「海、海へ行きたい」
「海?いいねぇ。明日は天気もよさそうだし」
「違うよ、今から」
…今?
思わず聞き返す。
あっさり頷かれたのでさらに本気? と訊くと、僕はいつだって大まじめさ ときた。
どうやらどうあっても行く気らしい。
こうなった君には何を言っても無駄だし、まさかこんな時間から泳ぐ気はないだろうし、海を見るだけならそこまで遠くないし。
そうしたらすかさず君は トーキョーの海はいやだと言う。
「明日は休みだから少しくらい夜更かししてもだいじょぶだよ」
次の日が休みなら朝は早く起きる必要がないのでその前の晩はいつもより遅くまで起きていてもいいとの理屈らしいがよく考えるといかにも子供が言い出しそうなヘリクツだ。
よくわからない理論でまるめこまれるのはいつものことだけど。
僕はため息ひとつ残してどこまでもお付き合いさせていただくことにした。
それでわざわざ車まで出して、夜中のハイウェイをひた走ること数時間。
潮の満ちた波打ち際に僕らは立っていた。
波はちょっと荒れ気味で、強めの風が肌に心地いい。
君はさっそく裸足になって、近ごろじゃ何か打ち捨てられてるかもわかったもんじゃない危険な砂浜を機嫌よくかっぽする。
そのうち波に足をとられてころぶだろう。
「まっくろで海だかなんだかわからないね」
「でもここは海だよ」
首都高ちかく 街灯なし ゴミ多し、月は薄い 星はまばら 灯台ちらほら。
ここは僕らの知ってる昼間の海じゃない。
「ここは海だよ。
どんなにまっくらだって 例え僕の目が見えなくなったってわかる。
ここは僕らを生み育んだ母なる海だよ。
僕らは海に沿って歩いているんだ」
そう言って、君は目を閉じる。
「詩人だねぇ、君って人は」
僕は君に追いついて、君のとなりに並んだ。
波が足をすくう。
転びそうだ。
「時々帰りたくなるんだよ 海に」
「それじゃあ君は海から来たわけかい?」
「君だってそうだよ」
波の音がきこえる。
潮のにおいがする。
しけった風がふく。
「なら僕らは兄弟だね」
「そうだね」
あいかわらず真っ暗だけど、僕らは海に近かった。
「僕らは皆 海に沿ってあるいている」
君の考えることはわけがわからないけれど、わけがわからないことを考えてる君はちょっとかっこいいといつも思う。
「さあて そろそろ帰ろうか」
君は猫の目よろしくくるくる気をかえて、裸足のまま踵をかえす。
潮風で髪の毛がバサバサだと君は文句を言うけど、海へ行こうと言ったのも君だ。
付き合わされるこっちの身にもなってみたらどうだ。
なんて、僕も文句を言ってやると、
海に沿う道を行きながら君は、しごく楽しげに言う。
「でも君の行くところを選んだのは君さ」
「まぁね」
多分、海どうのよりも 僕は君に添って歩いてるのがたのしいんだと思うし、この先もそうなったらたのしいと思ってるんだと思う。
海に添う道を 君と 行く
たぶん「沿うor添う」って意味だろうけど折角だから無理やりどっちも使った。
最初の文と最後の文違うの気付きました?
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